南井三鷹の竹林独言

汚濁の世など真っ平御免の竹林LIFE

作者に奉仕する作品

作者に奉仕する作品というものは、総じて退屈だ。

自分が社会やその手の「業界」に評価されるために、作品を作る。
作者に奉仕する作品とは、作者の「社会的地位」を高めるための道具のことだ。
そういう作品は、「どうしたら同時代の人々に評価されるか」ばかり気にしている。
うまくいけば、目論見通り社会で評価され、作者たる自分の地位が獲得できる。
作品がナントカ賞を受賞すれば、立派な「作者」になれるというわけだ。

純粋に楽しめる作品──つまり、エンタメならそれもいい。
エンタメ作品は「商品」であることにためらいがない。
「商品」は売った人をセレブにする。
良い商品をたくさん売った人は、すぐれた経営者だろう。
そこでは作者に経営センスが要求されるのだ。
しかし、作者に経営センスがなかった場合、別にその手の専門家がいた方がいい。
たとえば、作品を書籍化するなら、出版社がその役割を担う。
だから「売れた」ことが作者の手柄になる場合、その経営を担った出版社の手柄が大きくなる。
ここで作者と出版社に持ちつ持たれつの依存関係が生まれる。
とりわけ広告の時代である現代では、プロモーションを担う経営面の力が、作品はもとより作者をも凌駕している。
買わなくてもいいものを買わせる高度消費社会は、ますます作品の力(つまりは使用価値)を失わせている。

文学や芸術とは、そういうものではない。
商品交換以前にあった贈与のような価値を帯びている必要がある。
たとえば羊を神に捧げる「供犠」。
家畜として人間の役に立っている羊を、神に捧げるために破壊する。
人間を超えたものに奉仕する行為には、そのような有用性の破壊行為がつきまとっていた。
文学や芸術の起源が、ここにあることは疑いない。

だから、作者に奉仕する、いや、「作者」になりたがっている人に奉仕する作品など、
文学の世界には本来必要のないものだ。
自分を社会的に有用な人間にするために、せっせと作品を売る。
こんなものは、どこから見ても日常的な営為でしかない。
そこいらのサラリーマンや経営者の日常風景と何が違うのだろうか。
とりわけ、クオリティを精査されるでもなく、作者のネームバリューと貢献度によって、業界雑誌に作品を載せてもらう職業化した詩人など最悪だ。
詩を書く力を失っても、業界に居座ろうとするし、
ひどいのになると、コラボ商品とか売って、詩そのものを冒涜する結果になる。

しかし、そういう日常的な営為ほど、普通の人たちにとって努力をせずに理解できるものであるため、
いつのまにか世の中がひっくり返って、文学や芸術を冒涜するのがポストモダンで最先端だということになった。
冒涜で商売する人たちが業界サロンを形成し、
社会的地位を確立した作者は、それだけで高尚なセレブであることになり、それに異を唱える人を業界サロンから追放した。
そもそも、作者である自分に奉仕するのが文学だと思っている人たちなので、そうなるのは当然だろう。
こうして作品は消え去り、商売人としての作者だけが存在するようになった。
作者が喧しいわりに、作品は水面にも上がってこない。
作品が何かを語るレベルにないから、
自ら雑誌やSNSなどのメディアで、自分がいかに作者であるかを宣伝する滑稽な事態になっている。

そんな「作者にとって有用でしかないエンタメもどき作品」を必要とするのは、同様の手口で「商売人=作者」になりたい人だけなのだが、
エンタメ作品で勝負する力がない人が、ここに逃げ場を求めてくるのだろう。
成功者よりそれに届かないワナビーの方が数は多いから、それで商売が成り立つらしい。
奇妙な世の中だ。

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芸能人

芸能人タレントになりたい俳人詩人が多いような気がします。俳句や詩が、業界出世の道具なんですね。自分も戒めなければなりません。

枝蛙さんへの返答

芸能人やタレントになるには顔出しが欠かせませんが、小説家や詩人、歌人、俳人は顔出し必須ではありません。
村上春樹も露出を嫌ってますよね。
自分は安全なところにいて、偉そうなことが言えるという点で、芸能人やタレントよりタチが悪い人がいるように思います。
アウトロー詐欺とか、ハラスメント反対詐欺とか、差別発言選考委員とか、そういう俳人が出てくるのも、
俳句業界には現実の自分で勝負しなくても、許される風土があるからではないでしょうか。

  • 南井三鷹
  • 2024/02/15(Thu.)

プロフィール

名前:
南井三鷹
活動:
批評家
関心領域:
文学・思想・メディア論
自己紹介:
     批評を書きます。
     SNS代わりのブログです。

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